ドライビングスキル向上のためにゼロから製作

なぜ自社製作に至ったのか?

実車走行を見据えたレーシングシミュレーターでの走行は、モータースポーツを楽しんだり、将来を見据えたりする、とても貴重で重要なトレーニングの一環です。その後の実車走行で人生を左右することもあるからです。カンジ・レーシングシミュレータージムはこれに常に気を配り、最善を尽くすよう心がけています。

ですがこれはシミュレーターコーチのコーチング技術だけではどうしても賄うことができず、レーシングシミュレーター本体というハードウェアとシミュレーションデータというソフトウェアに頼らざるを得ません。なぜなら、ドライビングで得た結果はすべてソフトウェアの演算のもとに導き出された結果であり、その結果はハードウェアを通して人の五感へ伝達するからです。もちろん、ハードウェアのクオリティやその調律は重要です。ですがそもそもこれは演算結果に対する信号の調律にほかなりません。

また、これと同じようなことがハードウェアに対しても言えます。実車挙動に限りなく近しい「正しい挙動」データであっても、その挙動がゴムやスプリングの緩衝材を通して身体に正しい情報を伝えられるわけはありません。なぜならバンプラバーやサススプリングの演算を行うのはソフトウェアだからです。こういった原因などで、人は演算結果である物理挙動を勘違いしてしまったり、誤った認識の下で修正してしまいます。タイムは出したいですもんね。最も大きな勘違いを生みやすく、違和感の原因ともなるのが、挙動の「遅延」です。

これらを踏まえ、ある一定の結論が導き出されます。それは、「遅延のない挙動」と「実車感覚のデータが不可欠」だということです。

遅延とはいったいなんなのか?

「操作した内容が反映され、画面の描画に対し、身体が挙動を感じ取るまでにタイムラグがある。」これが遅延です。レーシングシミュレーターは、センサーの値をPCへインプットされ、これはPC内で各種ソフトウェアによって計算されたのちに各デバイスへアウトプットされます。超極端な言い方をすれば、ハンドルを切って1秒後に横Gがかかったようにシートが傾くといった感じでしょうか。この遅延というものは相当厄介なものです。

なぜ「遅延」をなくすことができたのか

レーシングシミュレーターにおいて遅延の有無を左右するものは、PCの処理速度(かなり大雑把な言い方)・モニターの性能・フレーム重量と剛性と「ガタつき」・シート剛性・モーションアクチュエーター解像度と推力などなど・・・非常に多岐にわたります。すごく簡単に言ってしまうと、その全てをクリアすればいいのです。PCの処理能力を左右するものは、主にCPU・GPU・メモリです。高性能なパーツで構成すると、高性能な他のパーツ(マザーボードなど)を求められます。それをチョイスするには、PCを自分で組む必要があります。モニターは通常のモニターではなく、高リフレッシュレートの物を使用します。フレームは工夫すれば高剛性と軽量化を両立できます。シートは専用の取り付けブラケットを自社開発しております。モーションの要であるアクチュエーターは非常に高推力なものを緩衝材なく使用します。
上記のように、遅延の原因となる事象は様々で、これを解決するための開発に非常に時間を要しました。

モーションシステムの開発のきっかけ

「遅延のない挙動」とは、ドライバーの操作に対しPCのソフトウェアが行った挙動(演算結果)を可能な限り早くモニターやモーションシステムへ出力し、可能な限りドライバーの体へ物理的な感覚として感覚的に遅れなく情報を伝えることを指します。

ある時からドライバーとしての感覚的な疑問を抱きました。レーシングシミュレーターでドライビングレッスンを開始し始めた頃、モーション筐体ではありませんでした。この頃はシミュレーターでの練習後の実車ドライブ時に、どうしても「感覚的なずれ」が大きく疑問だったのです。FFB(ステアリングの反力・キックバック)は調整可能で、違和感のないように調整できましたし、画面の調整もイメージ通りの調整ができておりました。できる限りの調整は試してより良くなったとは思っていました。ですが違和感は残りました。この状態でできることは、シミュレーター専用のドライビングで、頭で理解してできるかどうかやってみる、「ドライバー脳のトレーニング」でした。ですが同じこと(力加減や得たイメージ)は実車では通用しませんでした。

3年が経過したころ、実車でのコーチングが増えてきたときにさらに気づきました。
「クルマの動きがシミュレーターでは把握できていないんだ。だから実車ドライブとイメージがどうしてもずれてしまう一面がある。」
動きというのは、ピッチ・ロール・ヨーの量およびスピードです。これはいくらデータを修正しても納得のいくものではありませんでした。

そこで、その動きを感覚として補完するためにレーシングシミュレーター本体を動かす、「モーションタイプのSIM」の導入を考えました。当時はモーションタイプのSIMはごく一般的に存在しており、日本でも流通しているものでした。現在では様々なタイプのものがありますよね。私は時間をかけ、ひたすら海外の情報を調べました。そして、海外のものを含めて様々なSIMに実際に乗ってみました。ですが納得はいきませんでした。

疑問と解決策を見出す

いったい何が問題なのか?それは実際に乗ってみて「実車のG変化スピードや車両姿勢変化スピードとはかけ離れていて、まるで参考にならない。運転できない。」と感じてしまったことです。つまり、遅延というタイムラグを考慮したドライビングが強制されてしまうのです。さぁ困りました。操作タイミングが100分の1秒を求められるモータースポーツを目的としているのに、そんなことがあってはなりません。そんなシステムは無いほうがいいとまで考えました。いわゆるモーション筐体で「モーションの量を著しく少なく」してみたり、「モーションを止めて乗る」プロのドライバーさんを見かけませんか?

ですがこの遅延問題はある方法でのみ解決できることを知りました。それは、フレームとモーションシステムをゼロから製作することでした。なぜなら、導入検討中にフレーム剛性や重量がその遅延にも関係することが判明し、現状これが実現できている部品が存在しなかったからです。つまり、一から作るしか選択肢がなかったのです。

02GTの前身である
01GTプロトタイプの開発現場

02GTは、01GTプロトタイプという開発機を経て完成しました。テストを繰り返し、課題点が発覚しては対策や設計変更の打ち合わせが何度も重ねられました。当ジムの田中は毎日夜中遅くまでモデルデータの研究や試行錯誤に追われておりました。

シミュレーションデータの重要性

ソフトウェアも時代とともに進化してきました。もちろんモータースポーツカテゴリーや車も進化してきました。ハードウェアが身体に情報を適切に伝えても、その情報源そのものが間違っていると、非常に高い確率で逆効果を招いてしまいます。
お客様とのレッスン内容やスケジュールの打ち合わせで得られる情報の中には、シミュレーションデータの変更が必要となる要素は非常に重要です。
「タイヤロットが変わった。熱が入りにくくなって、コンパウンドが少しハードになったよ」
「来シーズンから新たなマシンになる。ダウンフォースが少し増えるみたい」
「エンジニアからの提案で、もう少しオーバーな方向性のセッティングを試したい」
「次はSUGO戦なんだけど、雨っぽいんだよね。雨量は2mmかな?でもゲリラ豪雨みたいなパターンも考えられるよね」
などなど。ハイレベルな要求にお応えせねばなりません。このような要素の対策には特殊な調整が必要です。お客様と同意の上(もちろん秘密データもあります)で情報を共有し、調整を繰り返します。面倒な調整はお任せいただきます。必要な変更要素があればご連絡いただければカンジ・レーシングシミュレータージムで調整して遠隔操作にて同期させていただいております。

何年もかかりましたが、『K-ReguLus02GT』は完成しました。今は02GT生産10台を超え、その10台は安定して性能を維持し続けています。3年半以上前から稼働し続けているカンジ・レーシングシミュレータージムの0号機(生産1台目)も、その前身であるプロトタイプ機も要のフレーム部分は一度も破損することなく、今日も元気にハードユースされています。

K-ReguLus02GTの主な特徴について

実車感覚のモーションシステム

  • 02GTが誇るDMS(Direct Motion System)は、緩衝材を一切介入させない、独自のハイレスポンス挙動モーションシステムです。
  • 現状で入手し得る最大推力(押し引きする力)・最高解像度(1ms)・高耐久のアクチュエータを採用!
  • ドライバーの感覚を元に、違和感のないモーション設定をしております。

02GTは何が違う?

  • 取付ジオメトリを一から研究し、画面やステアリングフィードバックとも相まって、ヨー角の動きが分かるようになっています。
  • 完全に画面と同調するモーションスピードは、他社製と比較すると圧倒的レスポンスと解像度です。これにより更なる違和感の軽減と錯覚効果を生み出します。
  • ツーリングカーはもちろん、フォーミュラでこのレスポンスは必須です。

没入感を高める3画面

  • 32インチ・曲率1500Rのトリプルスクリーンで正面方向の視界描写と横の流れる描画がより自然となり、没入感を高めます。
  • モニターと目との距離やモニター本体の取り付け角度を最適化することでより自然に近い見え方を実現。
  • ハイリフレッシュレート165hzを採用。コーナリング時でもより滑らかに景色が流れることで「Sim酔い」を防ぎます。
  • 視界から不必要なものを排除する、独自のシェード形状によりさらにクルマの動きに対する違和感がなくなります。

02GTは何が違う?

  • 画面のリフレッシュレートは高いほど映像が滑らかになります。120hzはまだましですが、60hz(液晶テレビなど)では画面が若干コマ送りのような映像となってしまい、錯覚に至るには程遠く、とてもドライブに集中できるような状態ではなくなります。02GTは現在165Hzのものを採用しております。
  • ドライバーの眼球位置に対するモニターの配置や角度も重要な要素です。当ジムではその位置も様々なポジションを常に研究し、02GTでは実際の見え方に非常に近い状態でドライブいただけます。
  • 背景の余分な部分を見えなくすることも没入感の向上につながります。02GTのほぼすべてのパーツが黒いのはこのためです。

音の方向が自然にわかる音響システム

  1. フロント2個・リア2個・サブウーファーの計4.1chを採用。音の方向も自然に判別ができ、本能的操作が求められる他車とのバトルなどでは必須です。
  2. 大ボリュームでも割れのない高音質です。
  3. スピーカーの方向や高さを最適化しております。

02GTは何が違う?

  • 各スピーカーの高さをドライバーの耳の高さ周辺に配置することで、正しく音の情報を伝えます。
  • スピーカー距離に最適化した設定をすることで自然な音の方向がわかります。
  • 実車同様の大音量でも音が割れたりしない高品質なスピーカーです。
  • シートのすぐ後ろのコントロールユニットにイヤホンを接続することができます。

タイヤを感じる!ステアリングシステム!

  1. 様々な車種1台づつ違うステアリングの細かな調律により、実車と変わらないステアフィールでのドライブが可能です。
  2. ステアリングユニットはチルト角変更ができます。前後位置変更は固定されており、代わりにシートとペダルユニットを前後させることでステアリングとの距離を調整します。
  3. 多彩な車種と同一、もしくは同径のステアリングにより、より自然にドライブが可能です(A以外はオプション)。クイックリリース機構により簡単な交換が可能です。
    1. 320mm汎用GTタイプ(標準装備)
    2. 270mm汎用フォーミュラ
    3. PORSCHE CUP 997-991
    4. PORSCHE CUP 992・Cayman GT4
    5. Ferrari 488GT3
    6. Ferrari488 Challenge Evo
    7. Mercedes AMG GT3/GT4
    8. Audi R8LMS / RS3TCR / Lanborghini HULACAN GT3
    9. BMW M4GT4 / M2CS

02GTは何が違う?

  • 02GTでは、車種ごとにFFB(ハンドルを切った時の感覚)を調整済です。
  • FFBの根本を決めるのはステアリング設定だけではありません。マシンセットやタイヤパラメータによっても大きく左右されます。
  • ステアリングの軽さやハンドル径によってかなりの変化がありますので、車種とステアリングは必ずセットで調整します。

競技車両用バケットシートを採用!

  1. シートを通して伝わるクルマの動きのインフォメーションを実車と同一にするため、そのままレースに使用可能なバケットシートを採用しました。
  2. 様々な日本人の体型に合わせて作られたシートがしっかりホールドします。
  3. 適切なテンションが発生するシートベルトがより違和感のなさを引き立てます(オプション装備)。

02GTは何が違う?

  • 車両のタイプに合わせて、面倒な工具を使っての作業無く、シートポジションを変更することが可能です。誰でも簡単にポジション変更することが可能です。
  • シートベルトをしっかり締めることで、減速感覚がわかりやすくなり、ブレーキング時の体のずれを防止、さらに02GTのモーションシステムのレスポンスを無駄なく体に伝えます。

実車と一緒の感覚!3ペダルユニット

  1. 様々な調整が可能なアクセルペダル
    • 専用のスプリング交換により硬さが変更可能です。
    • リターン位置や全開位置の調整によりストローク量が調整可能です。
    • ペダル本体の前後左右移動が可能です。
    • ペダルフェースのポジションが変更可能です。
  2. 実車と全く同じ力でシミュレート可能な完全油圧ブレーキ
    • 油圧センサーの採用により実車と同じロガー確認が可能です。
    • Willwood社製4POD競技車両用ブレーキキャリパー、マスターシリンダーを採用しました。
      →実車と同じブレーキタッチと正しいロガー波形を再現するために
    • 競技車両用ステンメッシュブレーキホースを採用しました。
    • 専用のウレタンパッド・金属パッドの厚さ変更で様々な油圧フィーリング変更が可能です。
    • キャリパーの開きを調整でき、非常に細かいフィーリング微調整が可能です。
    • ストローク開始位置の調整ができます。
    • レバー比を変更することでGT↔フォーミュラのタッチを簡単に変更できます。
    • ペダルの左右位置調整が可能です。ヒール&トゥーの際のポジション調整が簡単にできます。
    • ペダルフェースのポジションが変更可能です。
  3. 油圧からワイヤー式まで、様々な硬さ調節が可能なクラッチ
    • 実車でのクラッチスプリングのフィーリングを忠実に再現しました。
    • 2つのスプリングを変更したり、プレロードを調整することによって様々なフィーリングに変更が可能です。
    • クラッチミート感覚の調整ができますので、スタンディングスタート練習も可能です。

02GTは何が違う?

  • ブレーキタッチはかなり細かく変更可能で、ドライブに違和感がありません。
  • 完全油圧式で、実際にブレーキキャリパーがあります。
  • ブレーキには油圧センサーがあり、正しいブレーキの加減となっています。
  • クラッチミート感覚の細かな調整が可能です。スタート練習にはもってこいです。

HD3画面FPS165超ハイスペックPC!

  1. システムは全て遠隔操作にてアップデートや各種データ編集を行います。
  2. コンセント部分の電源スイッチを入れるだけで起動します。
  3. 参考スペック(2022年12月現在)
    CPURyzen7 5800X3D
    GPUGeForce RTX 4080
    メモリ3600Mhz OC 8GB 2枚
    マザーボードB550チップセット・mini-ITX
    CPU冷却280mmラジエーターAIO水冷
    電源プラチナ規格1000W
    ストレージNVMe M.2SSD 1TB

     

02GTは何が違う?

  • ほかレーシングシミュレーターに類を見ない、圧倒的にハイスペックPC構成となっております。
  • PCは現在、ケースから自社製作しております。

その他・推奨事項など

大きさW1950 × D1980 × H1970
設置に必要な最低スペースW2000 × D2000
消費電力250~850W (音量中程度での時間あたり参考消費電力1.59kWh)
ネット環境最低1G光回線・有線接続必須
推奨事項①床が水平でフラット・凹凸なし・階下への騒音を考慮してください
推奨事項②設置場所の窓は遮光する
必要な電源コンセント1500W・100V・1口

価格および導入費用

製品名称K-ReguLus02GT
本体価格税込み ¥5,500,000-
KSS(サポートプログラム・加入必須)個人使用契約:¥20,000-/月
商用利用契約:¥50,000-/月

 

完全自社製レーシングシミュレーター

K-ReguLus02GT」

※ K-ReguLusとは、カンジ・レーシングシミュレータージムの田中莞士が手掛けるレーシングシミュレーターメーカー名です。「K-ReguLus02GT」とは、その機種名です。